━基地・軍隊・性暴力━韓国の闘いに学ぶ旅
生存権をかけた反米・反基地闘争の現場を訪れて(2000年)

 今回、一週間ほど韓国に行くことになった。韓国では、梅香里(メヒャンリ)国際射爆場の閉鎖問題やSOFA(韓米駐屯軍地位協定)改正協商が決裂するなど反米闘争が高揚している。その中で、梅香里で闘争している活動家や軍隊による性産業や性暴力に反対する人たち、売春根絶運動をされている人と会うことができた。ここでは、その韓国での出来事の一部を紹介するものである。


 ソウルから高速バスで一時間半ほど行った仁川に近いところに梅香里はある。韓国では、軍事機密上の理由から、地図に基地を記載することはできないため、「目的地はだいたいこのあたり」という通訳氏が唯一の頼りだ。韓国の交通マナーは、とても悪いとウワサには聞いていたが、バスが急ブレーキや車線変更などするたびに、車体が大きく揺れ続ける。日本でバスに乗れば居眠りの一つくらいはできそうなものだが、韓国では居眠りどころか吐き気を催すくらい乱暴な運転だった。
 バスからタクシーに乗り継ぎ、二十分ほどで梅香里米軍国際爆撃場閉鎖汎国民対策委員会(以下は「対策委員会」とする)事務所の前に到着した。対策委員会の委員長であるチョン・マンギュさんにアポイントメントをとっておいたので、さっそくインタビューを行った。
 まず、インタビューを聞いてビックリしたことをいくつか紹介したい。一つは、爆撃場周辺に住んでいる住民に対する韓米政府の発想である。それは、爆撃場周辺に生活する人間がいるということが、攻撃目標を爆撃する戦闘員にとって、緊張感をもってよりリアルに、爆撃訓練ができるという発想である。
 実は、これが一番、梅香里爆撃場構想の中で抜けてはならない重要な点であるというのだ。ということは、爆撃場そのものが人間の生存権を認めていないという前提条件から作られているという点である。そして、この爆撃場が、アジア各国の米軍基地から飛び立ち、爆撃を行っている場所だということも、認識を新たにするものだった。私は、てっきり梅香里の近くに飛行場があり、戦闘機がそこから飛び出すのだとばかり思いこんでいたのだ。だから「梅香里国際射爆場」なのだ。
 これは、グローバル安保体制のもとで進められている問題として、第三世界や国境を越えた過疎地域に紛争や危険地帯を押しつけ支配体制を作り上げている問題の一環として梅香里があるということなのだ。私たち日本本土の連帯闘争の質、一国平和主義的発想の枠内で行われた大衆運動が問われていると感ぜずにはいられなかった。
 また、韓国の闘争の最前線で住民と対峙せざるを得ない若い警官たちは、実は徴兵制でかり出された兵士、その中には学生運動を担ってきた活動家たちを最前線に立たせているという。日本でも発売されている梅香里闘争速報ビデオの中で、基地を守るため、泣きそうになりながら住民と対峙していた警官たちは、そんな事情のもとでかり出されていたのだ。
 韓国で徴兵制度のもと、徴兵制を拒否する運動があまり見えないのは、なぜなのだろうとついでに通訳氏に聞いてみた。彼が言うには、兵士になることを拒否すると臭いメシを食べさせられた上、本人の身分を証明するカードに徴兵を拒否したことが記載され、一生生活権を脅かされるというのだ。韓国では、徴兵制が、年齢に達した青年、学生たちの一つの大きな関門となっている。そして、韓国での徴兵制の根っこの深さを、日本から来た私が軽々しく語ることは出来ないと思った。
 このように梅香里の闘争が、単に爆撃場閉鎖というものだけではなく、人間の生存権をかけた反米・反基地闘争なのだということをインタビューで知ることができた。
 マンギュさんの話を聞いた後、事務所の中の展示室を見学した。大小さまざまな薬莢や砲弾などが見ることができる。この梅香里闘争が高揚する前は、演習中でなければ射爆場に入り、子どもたちが薬莢などで遊ぶ光景も見えたらしいが、現在は立入禁止となっている。また、大きなパネル写真も展示してあり、地元住民の怒りが伝わってくる。大きな砲弾を肩に抱え、真剣な表情で訴えるマンギュさんの写真など一枚一枚が闘争の臨場感を感じさせるものだ。
 事務所の屋上に上ってみる。対策委員会事務所のすぐ隣は、射爆場の敷地だ。屋上からは、高台のため演習場が見渡せる。米軍用敷地の境界線である鉄条網から一面に広がる「不法」耕作地。「土地を射爆場にされてしまったが、自分たちの生活を守ってやる」という地元住民の意志が刻まれているかのように耕作地が続いている。沖縄・伊江島や三里塚の農民の姿がダブる。
 大きなカマボコ状の兵器工場、そして、爆撃を観測するために建てられている監視塔はすべて米企業のものだ。因みに、最近わかったらしいが、九八年からアメリカの軍需産業で悪名高きロッキード・マーチン社が、この射爆場の管理及び運営を担当しているのだ。遠くの空き地では、大勢の黒い姿の警官たちがかけ声を掛けながら何かをやっているようだ。反対住民たちの鎮圧訓練でもしているのだろうか?
 爆撃の標的になるノン島は、爆撃による損傷で、ブルドーザーで作っては壊す砂利山のような無惨な格好になり果てている。この地域には、かつて三つの島があったそうだが、爆撃によって残るはノン島だけとなっているのだ。
 演習場の周辺を散歩する。……家畜もいる。散歩をしている間に、突然「ブルルルルッ!(この間約0・5秒)」という心臓の鼓動が早まったような、家畜が悲鳴をあげるような、それでいて身体が揺さぶられるような重低音が響き渡った。その直後、私は、何事が起こったのかわからなかった。それからしばしビックリしてあたりを見回した後に、機銃掃射の音だということを通訳氏が教えてくれたのだった。そういえば、マンギュさんの話を聞いているときもこのような音がしていたような気がする。ただ、部屋の中だったせいもあって、あまり気にならなかったのだ。さらにびっくりしたのは、たまたま農家の人が家畜の世話をしていたのだが、何の反応も示さずに黙々と作業をしているのだ!
 「ここの人たちは、演習の轟音に気を取られることなく作業をする人たちが多いんですよ。この轟音のために、植物さえも育たないというのに……。私だったら、絶対住めませんよ!」と同伴してくれた韓国の友人はつぶやいた。
 この日も、演習が行われ続け、監視塔の丘の後ろではあやしげな煙がたち、戦闘機が何度も低空飛行を繰り返しては、「ブルルルル」という機銃掃射の轟音を響かせていた。
 梅香里での住民の激烈な反基地闘争によって、韓国国防部は八月十八日に、機銃掃射場一帯での射撃演習の中止や地元住民の移住を含めた総合対策を打ち出さざるを得なくなっている。しかし、その後も機銃掃射場では毎朝射撃演習が行われ、ノン島での爆撃はむしろ激しくなっている。
 また、総合対策を打ち出した翌月に、またもや米軍戦闘爆撃機による誤爆事故が発生した。安全圏であるはずの船着き場にまで流弾が飛んできて、作業をしていた住民たちが避難するという事態にまでなった。この地域の漁師たちは、米軍の射爆場のために、数十年の間にわたって漁業免許権を得ることが出来ず、住民の大多数が観光漁業を行ってきた地域なのだ。
 この事件で当然にも求められるべき地元住民の漁業補償に対して、こともあろうに国防部は「空漁業(観光漁業)は補償から除外される」と一蹴したのだ。このような韓国政府と米軍によるのらりくらりとした対応に対し、梅香里だけではなく、韓国全土で反米・反基地闘争が激化しているのだ。
 その夜は、梅香里闘争の速報ドキュメントの制作者である、コアンウォンソクさんに会い、話を聞くことができた。彼は、まだ二十九歳の若い活動家だ。この日彼は、梅香里闘争の一環としてアメリカ大使館前での抗議行動に参加していたようで、その模様などもうかがった。
 彼が闘争現場に足を踏み入れるきっかけとなったのは、映像専門学校に通っていたころ、先輩が民主化闘争を取り組んでおり、感化され考えるようになったという。ウォンソクさんは、闘争の過程で、実弾演習中に中に入り逮捕された一人だ。そして、今回、八人の人間が柵の中に入り逮捕され、罰金刑を言い渡されている。ウォンソクさん曰く、「そもそも正しいことをやっているのになぜ罰金を払う必要があるのか。罰金は不当であり、牢屋に入れられても払わない」と言っていた。その小柄で静かながら真剣な表情と瞳からは、言い尽くせない闘志がみなぎっているように思えた。話は梅香里闘争から軍隊と男性の暴力性についてなどにも及んだ。民俗音楽と韓国の地酒を飲みながら楽しい夜の時間を過ごすことが出来た。   (つづく)


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