3つのスローガンは晩年の石原莞爾が提唱したものです。ここでは、石原莞爾が軍事戦略家として成し遂げたこと、満州事変・対中戦争に対する彼の戦争責任問題、および東亜連盟運動推進者としての彼の思想的側面からの評価などをすべて括弧に入れたうえ、さらに上記3点にかんする石原莞爾自身の見解をもひとまず無視して、これらの語が21世紀初頭の困難な時代を生きる者たちに喚起するところについて私見を述べることにします。
今回はその1として、「農工一体」をとりあげます。
【農工一体】
1945年の敗戦時点では、首都は壊滅し市民は衣食住すべての面で窮乏を余儀なくされた。つまり、石原莞爾の言う、都市の解体と質素生活は現実のものとして存在していました。それらは戦後の急速な復興、さらに60年代の高度成長以降、瞬く間に過去のものとなってしまった。経済の成長とともに農業の工業化も進んだ。機械力、化学肥料、農薬を用いる農業が主流をなし、全国の農家が種苗販売、集荷、流通、金融に至るまで農協に依存する体制ができあがった。
こうして、画一化された慣行農法と硬直した農政によって、農産物生産者が本来もつべき自由な発想と主体性は失われ、結果、現在の国内の農業がさまざまな面で危機的状況にあることはここで繰り返すまでもないでしょう。
上に概括したのが、戦後の「農工一体」でした。
慣行農業への批判として始められた国内の有機農業は約30年の歴史をもつ、と言えるでしょうか。
農薬・化学肥料使用の農業から無農薬、堆肥使用の有機農業への転換を図ったパイオニアとしての生産農家は、周囲の白眼視、妨害に加え、技術的困難や収入減と闘いながら今日まで農業を営んでこられた。それらの農家の方々の批判精神と信念と努力には敬意を表さなければなりません。
現在、町のスーパーにも有機野菜が並ぶようになり、有機野菜が一般に認知されてきたのは彼らの功績です。
しかし、残念なことに、過去の有機農家の多くは孤立していた。有機農家間の繋がりはなく、相互扶助はおろか、共同の販路を開拓しようという試みもなく、技術・情報交換もほとんどないのが現状です。
したがって、有機農業を目指す新規就農者たちは直ちに販路不足、低収入の壁にぶつかって孤立を余儀なくされる。
「質素生活」が自ら選び取ったものとしてではなく、強いられたものとなる。これでは、希望としての農業を継続し、発展させる見込みはありません。
現在、2名の友人と私は都市型農業による有機農業の拠点づくりを計画しています。
すでに有機野菜栽培とその販売を行い、今年からその規模を4倍に拡大しようという友人Aの提案を私の予想を交えてまとめると、次のようになります。
A−Cを第一段階とすれば、第二段階として私が構想するものが農工一体のアソシエーションです。
それはどのようなものか。
まず、一般的なレベルで「農工一体」を考えます。
私は、60億という世界人口を考慮するとき、農業の工業化とグローバリゼーションは避けることが不可能だろう、と考える者です。したがって、農業用機械と新技術は積極的に取り入れるのが「農工一体」。だが、持続可能な循環型社会を目指すのが有機農業の理念であれば、当然、従来の「農工一体」の概念も組み換えていかなければならない。
田中正治さんから伺った、「農工一体」の例です。
新庄では、栽培したスイートソルガムからアルコール分を抽出し、トラクターや耕運機、車の燃料とする研究がW大研究チームによって進められているという。
この種の各種プロジェクトの成功と微生物・天敵・土壌にかんする基礎研究の充実が21世紀の「農工一体」を切り拓くものです。
次に、個別レベルで、私の構想にある「農工一体のアソシエーション」について簡単に述べます。
仮にA−Cの第一段階がある程度成功したとする。その時点で、農業以外の職人・軽工業者からなる自営業者たちの連合体の創設に着手する。「工」には勿論「食品加工」も含まれます。例えば、伝統的な工芸の継承者や鋤・鍬を造る鍛冶屋などの「工」の参加があればさらにダイナミックな展開が見られるかもしれない。面白くなりそうです。
もうひとつ。電脳の農的活用はないか。
野菜の宅配先にeメールを送る、デジカメ写真を送るなどの他にも電脳の活用法がありそうです。計画の提案者Aさん、賛同者Bさんともに電脳に詳しい方たちだけに、この方面でも期待できそう。
まだまだある私の考える「農工一体」、今日はこの程度にしておきます。
ここまでの私の話は夢想的ともいえますが、北大阪にはNAM的な企業連合が既に存在しているようです。
200万都市が有機野菜で自給するキューバの事例もある。とすれば、まるで不可能な絵空事を語っているわけでもない。
この計画、どこまでいくかわかりませんが、グラムシ言うように、「知性のペシミズム、意志のオプティミズム」でいかなければ、こんな時代、窒息しそうでやっていけません。
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