地域通貨論(2003) 三、協同組合ヘの展望

三、協同組合ヘの展望

 消費者の組織化に基盤を置くLETSは、協同組合(生産、これも原材料の共同購入、消費か らはじまる)と、むしろ「積極的」に「補完的」足り得るものであり、それらはその自給自足のノウハウを交換しあうことを視野に入れるなら、決して資本制を陰から補完するものではない(エコマネーのように野菜類の交換を禁止するケースはLETSでも例外である)。そもそも労働は「生産的な雇用」であり、消費はちょっとした投票であると共に、雇用(立場を変えれば)に繋がっているのだ。個々人に貨幣発行権があるLETSは中央集権的な体質を改めるためにも、籤引きとともに重要なアイテムになり得る。
 ただし、ここでLETS は協同組合にとって、十分条件ではなく、必要条件であることは、指摘しておきたい。また階級的個人と人格的個人という背反の中での、主体化(共同体内における分節化)の方法の摸索であることも追記しておきたい(「魚を与えるよりも、魚のつり方を教えろ」という諺がイギリスにあった)。
 ちなみに「消費が生産的となっている」ような具体例を挙げるなら、クラブDJのケースが挙げられよう。これはレコードを買う消費者=DJが、それを再構成して楽しむ中で、場を労働者として生産するというものだ。このDJの考え方には、カントやマルクスのテキストを再構成してトランスポジショナルな本として編み出された『トランスクリティーク』といった性質の出版物にもあてはまる。「雇用は生産的な消費」は標語となってしかるべきである。
 協同組合の重要性に関して述べるならば、出資金に比例しない一人一票の発言権の保証を したものであり、労働者主体の企業であることは無論だが、それに付け加えて、国家による再分配ではなく、生産レベルの共有による分配が、持続可能な生産に必要であるということも確認しておきたい。協同組合の定義に関しては、コーポラティブという地域密着型とユニオンという地域間横断型(市民型?)がある。日本語の訳語のせいで(コーポラティブもユニオンも「組合」と訳される)で概念的に錯綜しているが、ふつう一般に地域通貨はコーポラティブ(相互扶助的)に機能する。
 しかし、無償信用という地域横断型の信用組合的な側面もLETSにはあるし、特にオンライ ン式の場合はなおさらその傾向が強くなる。LETSはその赤字発行権(コミットメント)を個々人にゆだねるという点で、無償信用による簡易式信用組合であり、そこに国民通貨による起業の人員を結集する母体を生成する可能性があるのである。
 プルードンの相互主義に立ち返るなら、協同組合とLETSの両者は、共に法による契約を前提にしたものであり、先に引用した「政治機能は産業機能に還元される、社会秩序はたんに交換という事実にのみ由来する」 (「連合の原理」)TC,P260という言葉がともにあてはまることは言うまでもない。
 また、企業で現実的に直面する問題としては、企業内で地域通貨を始めた方がいいのか、 あるいは企業外で始めた方がいいのかという問題がある。資金調達に奔走している時は、地 域通貨にまで頭がまわらないだろうから、まずは既存の地域通貨との連携が現実的である(もちろん地域通貨のサークルの中から共同経営者を見つけることが望ましいし、現実的だ)。
 消費者側のサポーター制度として地域通貨が動けば、先に述べた得る側からのクーポンとの連携によって、その地域を母体とした、さらなる可能性を企業にもたらすだろう。そしてもし、その企業に外から働きかける時も、福利厚生面に利点があると訴えかけた方がいいだろう。
 この際、その企業内での地域通貨「導入」あるいは「育成」を、急いではならない。なぜ なら、交換は頭だけで行なうのではなく、心と心で納得しながら行なうものだからである。 そのような精神主義的言い方がまずければ、潜在的能力を徐々に引き出すためには急ぐべき ではないからだ。また、地域通貨、とくにLETSはフリーマーケット(市)が生命と言っても よく、その定期的開催が望まれる。これはオンライン式のLETSでも同様だし、地域密着型に おけるそれよりも、さらに重要だとさえ言える。
 企業内に導入するなら先に述べたように福利厚生の面でサービスの充実を計るか、2章で 述べたような会場内地域通貨を職場でイベント的に使用するのがよい。その時、他種の人間 (地域内の他業種の人間が理想だが、とりあえず労働者の家族でもよい)が参加できるよう な「公共性」が望まれる。ここで、たとえ稚拙でも違った技能を持った人間が尊ばれるとい う空間は、子供達の教育にもよい影響を与えるだろうし、同じ時間と場所の共有が、一年に 一度でもあることが大切であるということも指摘しておきたい。 こうした場の共有の論理 は、株式総会や、籤引きの原理にも共通した原理であり、ネット環境の充実度に比例してそ の一期一会の精神の貴重度は増してゆくだろう。
 最後に、筆者が政治的事象及び円の民主的運営を軽視する印象を与えたかも知れないので、協同組合への展望を指し示す、以下のトロツキーの言葉を引用しておく。
 これは、LETSによる、自律した横のつながりをもった消費者(分母)の拡大と労働者(分 子)の活性化を前提にしていると考えると、具体的なビジョンを準備したものとして捉え得 る(なお連合の原理についてはやはりプルードンの再評価を待たなければならない。筆者の 見解では、コングロマリットの片務的な経済至上主義の「連合」に対して相互(双務)主義 的な「連合」で対抗するのは不可避的な選択だと言える)。

労働組合はそれ自体において目的なのではない、−−−反対に、その任務 は、公事の管理に労働する全大衆をひきいれることである。
(トロツキー『労働組合論』三一書房より )


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「四、あとがき」へと続く


関本洋司
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