農の21世紀システム:1.物質系一生態系一文明系

 1)生物は、DNAに蓄積された遺伝情報に基づいて、環境から取り入れた物質・エネルギーを変換することで、生体を形成して生命活動を営んでいる。同時に、生物は、生体内で発生するエントロピーを廃熱、廃物として生体外に排出することによって、一定の秩序状態に維持している開放システムである。

 2)植物は、太陽エネルギーを吸収し、水、C02など無機物質から炭水化物という有機物質を合成している。この光合成によって形成された炭水化物、ビタミン、ブドウ糖、蛋白は高エネルギー、低エントロピー物質である。草食動物は植物に貯えられたその炭水化物をエネルギーにして生命活動を行ない、肉食動物は、その草食動物を摂取することで生命活動を展開する。それら物質代謝は、エントロピーを増大させ、廃物、廃熱を生体外に排出するが、それら廃物は微生物による物質代謝に利用される。有機廃物は、微生物によって分解され、無機物に還元されるか、有機物質を創出して土壌に放出される。それら放出された無機物や有機物は、再び植物の根から吸収され物質代謝するのである。

 3)このように太陽エネルギーを固定する生産者である植物、消費者である動物、そして分解者である微生物という物質一エネルギー循環を生物は形成しているが、それらは開放定常系の生命活動なのである。

 4)生態系が、このように物質・エネルギー循環をさせながらエントロピーを生体外に排出していても、なお開放定常系を維持しえているのは、生態系の外部環境一物質系も開放定常系であるからである。大気、水、土壌など無機的自然からなる地球物質循環も、生態系から受け取ったエントロピーを最終的に宇宙空間に排出する定常系であることによって、全体として地球上の生命活動が可能となっているのである。宇宙が膨張していることによって輻射熱は希薄化され、地球からの放熱が可能になっているといわれている。

 5)地球は開放定常系としての膨張宇宙に存在する開放定常系であり、気圏、水圏、地圏から構成されているシステムである。物質に関しては閉鎖システムだが、エネルギーに関しては太陽エネルギーを取り入れ、同等のエネルギーを宇宙空間に放出することでエントロピーを減少させる定常開放システムであるといわれている。

 6)地球内物質循環には大気循環・水循環・養分循環があり、大気循環と水循環は地表に存在する余分の熱エントロピーを宇宙に放出し、地表の熱エントロピーを低水準で維持している。ところが、山地から平地へ、陸地から海洋へ、海洋から深海へと水は流れる過程で養分ミネラ/レや有機物を移動させ、その結果をほおっておけばすべての養分は深海に移動し、すべての生物は消滅することになりうるが、実際には養分豊富な深海水は湧昇する海域が生ずることによって引き上げられ、海水がこれら豊富な養分を世界の海に回遊させ、魚が生育する。それらの魚を食べる海鳥が陸地に糞をし、その糞で昆虫がまた成育する。鳥はこれらの昆虫を食べ・山地の森に糞をする。このように深海から陸地一山地へと養分逆循環が起こっていることによって生態系が存在しえている。

 7)膨張宇宙を基礎にした地球の物質循環があり、その物質循環を基礎にして生態循環があり、さらに物質循環とその生態循環を基礎にして人類の文明系の循環が成立している。太陽エネルギー、水、大気、土(ミネラル)やそれらを基盤にした植物・動物・徹生物などの物質・エネルギーを自然環境から取り入れ、人間はそれらを労働を媒介に社会的生産物に変換して、人工の社会的物質エネルギー循環を形成してきた。

 8)産業革命以前の社会では、生産物の消費後の廃物や廃熱は、地球の物質系や生態系に深刻な影響を与えたわけではない。したがって、自然は無限とみなされていた。産業革命以降の資本主義社会が地球レベルで深刻な影響を生態系に与えているのは、資本主義の社会システムが、第一に人間を人身的隷属関係から解き放ち、物質的関係に人間社会の基礎を置き換えたからであり、第二に化石燃料、特に石油という特殊なエネルギーに依存しているためである。人身的支配隷属関係が基礎になっている社会では、生産の必要性はその関係の再生産の粋での局地的なものであった。他方、経済的支配隷属が祉会の基礎になっている社会では、資本の自己増殖にたいする人身的制約はない。形式的には自由で平等な貨幣と労働力商品との交換によって、資本は、無制限な自由な運動の基盤を獲得したのである。

 9)資本制経済の爆発的成長の原動力になった石油というエネルギー源の特異性は、第一に労働生産性が極めて高いことである。動植物の死骸を太陽エネルギーが固定変換して化学エネルギーにする効率の悪い過程を、数億年の時間が熟成した緒果、生産性の高いものに変化させていった。そそいでいる太陽光が分散型で、集中型エネルギーに適していないのに比較して、数億年で熟成した太陽エネルギーの凝固物(石油)は、集中型エネルギー利用の工業システムに適合しうる。第二に石油、原子力、石炭に比較して廃物エントロピーが低い。エントロピーが低く労働生産性が高い森林から、高エントロピーの石炭への移行が、資本制経済の生産性に制限を与えたのに対して、低エントロピーの石油はそうした制限のたがをはずした。第三に液状であることによって、体積のエントロピーが小さく、輸送が容易であることによって、世界システム化への道を容易にしたのである。第四に地下に埋蔵されているために、森林エネルギー利用のように生態系への依存をまぬがれており、その結果、生態系にそぐわなくとも地下から掘り出し、利用することによって、自立した経済システムである資本制経済に適合できたのである。

 10)資本制経済の爆発的成長の原因になった石油エネルギーは、同時に資本制経済衰退の原因ともなっている。石油は低エントロピーのエネルギーであり、またそうであるがゆえに大量生産、大量消費、大量破棄のシステムの中で大量消費が成されると人工的物質循環=文明系の外に排出される廃物一廃熱も膨大なものになる。実際、石油化学資本は、自然界に存在しない人工物質を無数に、かつ大量に生産してきた。例えば、メタンの構造を一部入れ替えたフロンという夢の物質(不燃、安定、無臭)や、便利このうえないプラスティックが発明された。化学農薬と化学肥料と石油動力は農民を重労働から解放するなど、産業と人間の日常生活のすみずみまで行き渡った石油化学文明を人間は享受した。だが、他方で、同時に、石油に依存する生産―消費システムが排出する廃物、廃熱エントルピーを処理不能の状況に陥れることによって、文明を成立させている地球の物質系と生態系を危機に陥れるたのである。生態系と異なって、この人工物質循環−文明系は、エントロピーを減少されるシステムを内包していない。系の外部から物質−エネルギーを取り入れ、加工し、系の外部に大量の廃物と廃熱をエントロピーとして放出する定常開放系である。現代人が作りだしたこの石油をエネルギーとするこの人工物質系の工業文明は、文明の外的存立基盤である地球のメインシステムである物質系、生態系を劣化、崩壊させ、その結果、自らの存立の基盤掘り崩しているのである。


「2.近代工業文明の基盤の崩壊現象」へと続く


田中正治
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