農の21世紀システム:9.農の21世紀システム(図8参照)

 1)21世紀の前半までに、つまり、これから二世代の間に、社会システムを革命すると仮定してみるとしよう。21世紀前半に天然ガスを除く化石燃料の使用は、地球環境的生態的要因によって不可能になっているだろう。また、工業を支えている希少金属の枯渇は、現実のものになっているだろう。それらの外的要因からも、現在の資本主義的工業システムの衰退は、決定的になっているだろう。他方、生態系一自然システムと人間自身の自然システム(生理的)も又石油化学文明の結果衰退しているだろう。内分泌擬乱物質による生殖能力の減退や、人類の天敵一ビールスヘの対応能力(免疫力)の衰退の結果、二世代後の人類は生存の危機に文字通り直面するだろうとおもわれる。

 2)そうした危機脱出のためにも、21世紀前半までに、人類は生態系の物質循環を基礎とする自然システムと可能な限り調和できる社会システムを作り上げること、具体的には、協同組合的連合に基づく地域循環型の社会システムのトランスナショナルーグローバルなネットワークを、人間の生存基盤にしていくことが最重要な課題になるだろう。新しい社会経済システムを実現化していくためには、第一に、生命、環境、循環、協同、地域をキーワードとした文化発信型社会運動の展開が、第二に、労働が資本をコントロールするさまざまな非資本制的協同組合、NPO、ワーカーズコレクティブ、市民企業などの事業体としての運動展開が、第三に、個人の生き方としても、協同組合、市民企業、ワーカーズコレクディヴ、NPOを設立したり、そこで働いたりする中で労働のありかたを変える生活のスタイルの転換が、第四に労働の直接交換システムとでも言うべきLETSシステムのような地域通貨の実験が、課題であろう。

 3)構築すべき協同的連合に基づく地域循環型の社会経済システムから考えて、その基本的要素である農業については、どのようなスケッチを描けるだろうか。
 具体的に農の21世紀システムを概括してみよう。
a)石油化学工業の廃止とエコ工業化。ゼロエミッション化(廃棄物ゼロ)、バイオ・プラスティック工業、バイオエネルギー(「緑の油田」)生産。天然原料、天然鉱物、太陽光・バイオエネルギーに沿った工業。
b)石油エネルギーの廃止と太陽・水素エネルギーへの移行。水素(燃料電池発電)、小型水力、太陽光、風力、バイオマス、バイオガスをメインにしたエネルギー地域供給システム。
c)工業化農業の廃止と有機農業へ全面的移行。有機肥料、生物農業、微生物−小動物の活用、都市と農村との人糞パイプライン、生ごみの堆肥資料化、輪作多品種作付体系、種子の自家搾取、種子バンク。
d)単作モノカルチャー農業から地域循環型農業へ。産消提携、産直の拡大、プロシューマ―、農業グループによる生産−加工−流通の一貫システムの形成、食糧の地域自給を基本としたシステムの形成。
e)工業原料の生産基地としての農村化。植物デンプンからのプラスティック製造、植物アルコールからの「緑の油田」、石油製品の天然素材への切り替えにともなう木材、紙、羊毛、綿、天然ゴム、陶器、皮、炭、微生物などの生産。
f)都市型工業型ライフスタイルから、田園都市型生命地域型ライフスタイルへの移行。半農半Xライフスタイルへの移行による仕事と遊びの近接。超高齢化社会への対応策=定年帰農。青年帰農。「社会的弱者」の精神的崩壊に対する太陽、水、大気、森林、海、土、植物、微生物の限りない癒し。福祉と農業の結合。協同的相互扶助住宅。
g)コンピューター付き地域循環型社会のためのトランスナショナルなグローバルネットワーク。地球環境と生物−人間の生存の危機の進行は、ボディーブローのようにじわじわとききめを表して、人間の世界観や価値観に大きな影響をもたらしている。貨幣を神の座に押し上げた資本主義的価値観は、特に若い世代を一面的に捕らえているが、他方では、地球環境と生命の危機の原因が、実は、貨幣を神に座に押し上げたシステムとその価値観であることに気づいた人々をも、急速に生み出している。生命への本源的危機感は、地球と生命をキーワードとする価値観を多様にうみだしている。従来の化学農法から有機農法に転換した農家たちのキーワーは、生命である。また、都市で産消提携や産直運動に参加する市民の多くのキーワードも、生命である。生命とはその場合、具体的には生命力有る安全な農作物、生産者と消費者の健康であり、百姓達と市民の直接的結合である。有機農業を展開する百姓達と、それを支援する都市市民達は、農村地域でこの数十年間パワーをつけてきた。家族農業のみならず、有機農業運動を事業体として展開するグループは、地域をかえつつある。だが、それらの事業体の成長発展を自己目的にすると、落とし穴におちこむかもしれない。資本主義との競争に目を奪われるのみならず、価格競争戦の中で、運動の原動力である人間と人間との直接の結合一対話的コミュニケーションや文化的価値創造力と、その発信基地としてのエネルギーを減退させられるからである。これらの事業体は、価値創造的文化発信基地、人間間の共振共鳴の価値発信基地と交流の場である。新たな文化圏を地域システムとして創造し、地域の経済圏創造の車輪をまわしていくことによって人々の地域参加と共同行動の媒体となりうる。

 世界に目を転じれば、工業諸国では、ビアカンペシーナ(農民の道)、生命地域主義グローバルネットワーク、パーマカルチュアムーヴメント、IFOAM(世界有機農業運動連盟)、地域通貨・LETSシステム、世界協同組合運動、ワーカーズコレクティヴ、NPOなど特徴ある運動が胎動している。それらは、地域での人々の連合した自律的パワー創造の運動としてみることも出来る。
 いわゆる途上国でも、300万人が参加しているといわれるアルゼンティンの地域通貨・RGTのように、またメキシコでのサパティスタの地方権力創造の運動のように、貨幣を神とする資本主義的価値観を批判し、国家と資本に対抗し、古い共同体に代わる創造的な社会システムの革命運動が、顕著に現われている。農の21世紀システムは、こうした社会システムの革命運動に物質的基盤を提供する。
 衰退する工業的資本主義に代わる、協同組合的地域循環社会は、多様な価値創造の爆発によって触発されている。


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田中正治
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