農の21世紀システム:8.工業の農業化又は工業のエコシステム化

 1)工業と農業は異なるので、工業を農業に完全に接近させることは不可能だ。しかし、可能な限り接近させることは、生態系の破滅と人類の生存の危機との関係で不可避であろう。

 2)現在、世界的な規模で、資本家階級に二つの流れ一パワーが存在している。−第一は、軍需、航空、石油、鉄鋼、化学、アグリビジネス等多国籍企業一銀行団を中心とする世界権力であり・グローバルスタンダード、メガコンペティションを合言葉に、USA国家権力を利用しながらの生き残り戦略で、自分の姿に似せた世界単一支配を推し進めている。生態系の破滅や人類生存の危機などは、この資本の世界権力の前ではたわごとに等しい。第二は、生態系の破滅や人類の生存の危機をビジネスチャンスととらえ、エコビジネスにチャレンジしているながれである。森林再生、燃料電池発電、太陽光発電・風力発電、省エネ省力機器の開発・リサイクル廃棄物の再利用、エコハウス、近自然工法、超低公害車、などの分野がそれである。

 3)単一の資本の世界権力は、生き残りのために社会に対して「全面戦争」を仕掛けており、生態系と人間にゆゆしい結果を巻き起こしているのだから、「全面戦争」で応えるほかない。多国間投資協定(MAI)や知的所有権に対する戦いはその一例である。第二のエコビジネスの流れは今後資本の本流になるだろう。だがこの流れも資本による労働の支配・資本主義の根幹を変革するものではない。すでに世界のさまざまなところで台頭しているが、資本による労働の支配でなく、労働による資本の支配システムをつくりあげる運動体一事業体の形成が、資本主義に代わるシステムを準備するものとして不可欠である。生産協同組合、消費協同組合、農業協同組合・農事組合・ワーカーズコレクティヴは、労働者の出資による協同組合事業体である。またアメリカで台頭している倒産企業を引き受けた労働者持株会社、、NPO(非営利事業体)などは、協同組合とともに、事実上、労働による資本のコントロール下にある事業体で、多国籍企業支配下の世界単一権力に対抗して、これらの事業体は資本主義に代わる文明の人間的基盤の準備と自然的基盤の防衛者として、また生命系の創造的文化発信基地として登場することが出来る。工場や大企業に働きにいかなくても、自分たちの手で協同のエコ的事業体をおこし、自分たちの手でもう一つの働き方、労働のありかたをつくりあげることが出来る。

 4)工業の農業化又は工業のエコ化
 「工業の農業化」とは、(1) 「工業製品の農業化」―工業製品、エネルギー、医薬品を農林漁業資源(バイオマス)を原料にしての工業製品の生産。(2) 「生産の農業化」―生物や微生物に工業的有用物質を生産させる。(3) 「公共事業の農業化」−鉄やコンクリートによるダムや排水路を森林や土壌や微生物による保水や水質浄化を行う、などが、現在のところ考えられる。
 (1) の「工業製品の農業化」に関しては、植物デンプンから乳酸を合成し、プラスティック生産したり、スイートソルガムからアルコールを取り、ナフサ化してプラスティックを生産する大規模な「バイオ・プラスティック化」。あの有用なプラスティックを植物デンプンから作るのである。また、スイートソルガムなど植物液を微生物発酵させてアルコールを取り、燃料やガソリンの代替として使用する「緑の油田」。農業が石油に代わるバイオ・エネルギーをになおうというわけである。これらは実際、すでに実用化、事業化段階に入っている。21世紀の中葉までに、エネルギーと化学製品の50%を植物系で生産することは、可能だろう。(2) の「生産の農業化」に関しては、微生物や酵素などの生体触媒を固定化、高密度化し、そこに植物などを通貨させることによってエタノール化などを連続生産させるバイオリアクターが注目されている。この生産過程は常温状圧の生産過程で可能なので、高温、高圧の石油化学の合成方で作られていたものをバイオリアクターで代替することが出来るといわれていて、実験段階にある。(3) の「公共事業の農業化」に関しては、鉄やコンクリートによって水系を切断し、その結果、生態系を切断している巨大ダムに換えて、森林、土壌、水田、微生物で「緑のダム」を万全にし、水質を浄化し、洪水や土砂流出を防止することである。また、鉄とコンクリートで固めた排水施設は、河川や湖を汚染し、その結果生物の多様性を破壊している。土壌微生物による水質浄化、アシなど水生植物による湖水浄化、海藻による海水浄化に買えることによってコンクリート管を撤去することが出来る。(「21世紀を「工業の農業化」による平和の世紀に」(『現代農業』特別号参照))

 5)現在、工場や株式会社で働いている労働者は、労働過程における労働条件改善を基本にした労働組合運動だけでなく、生態系と人類生存の危機という視点から資本と社会にたいするたたかいをとらえ返してみてはどうだろうか。例えば、資本がやろうとしているISO14000(環境マネージメントシステム)やグリーンプロセスやゼロエミッション(廃棄物ゼロ)などを徹底的に推し進めること。それらの主導権を労働の側がとることである。そしてある条件のもとでは、企業の根本理念と事業の変革にまでもっていくことである。労働者のたたかいで、軍需産業を平和産業の事業体にまで変革したイギリスのルーカスの労働者のように。
 そしてさらに、そのような企業内の闘いよりも有利なポジションから、労働者は、消費者・生活者として創造的で有効な闘い方が考えられるのではないか。例えば遺伝子組み換え食品をボイコットし、有機農産物を購入することによって、巨大アグリビジネスの農業支配、種子支配に対抗する闘いに参加することが出来る。住宅建設においても、大資本の提供する建売住宅の購入ではなく、価値を共有する人達との協同住宅を建設することでオルタナティヴな住まい作りに参加できる。食料品もスーパーからの購入ではなく、生協や大地など、又は直接有機生産者との産直でもう一つの流通形態に参加できる。福祉に関しても地域でニーズを同じくする人たちのネットワークの中から福祉生協や医療生協を作ることもできる。また様々な地域で広がっている地域通貨は、コミュニケーションのツールとして斬新であり、生活上のお互いのこまごまとした要求や労働の交換の場としても有用であるばかりか、福祉、医療、リサイクル、住宅、農業などの領域で、労働者が仲間と新規に事業体を立ち上げた場合、相互扶助の手段、商品交換の場としても開かれた可能性を秘めている。
 資本が提供してくる環境破壊的、非循環的、非人間的な商品をボイコットし、エコ的、循環的、人間的な有用製品やサービスを購入したり、協同の事業体を起こすことによって生活に真に必要なオルタナティブな製品やサービスを生産し流通させることに挑戦してもよいのではないか。「工業の農業化・エコ化」はそのような人々の支援と参加を必要としている。


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田中正治
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