農の21世紀システム:7.太陽エネルギー経済(2)

 1)人間労働を媒介として自然を支配することによって、自然から物質とエネルギーを搾取し、工業製品を生産、消費、廃棄する資本制工業は、人間の側からみれば、「物質・エネルギーの秩序化」であるが、自然の側からみれば生産過程−流通過程−消費過程から生じる廃熱一廃物の不可避的な累積の結果、地球の物質系と生態系の破壊として現象しているエントロピー増大、無秩序過程である。

 2)工業に対する農業の優位性は、エントロピーの側からみれば、植物のみが太陽エネルギーを固定することで、エントロピーを大規模かつ効果的に減少させることのできる唯一の生命体であることにその根拠がある。だが、この生命体も素材となる物質が絶えず補給されることによってのみ光合成を持続しうる。その物質とは、太陽エネルギー、水、CO2と根から吸収される無機物質あるいは有機物質であって、その無機物質、有機物質は微生物によっても与えられる。植物の根はその微生物に必要な有機物を与え返す。この土壌を媒介しての植物と微生物との物質交換は、光合成による太陽エネルギーの固定化を通してその量を増大する。その光合成の産物こそ生物生存の前提条件である植物なのであるが、この植物をたべる動物の糞や死骸は微生物によって分解され、無機物や有機物として植物の栄養素に還元される。こうして植物−動物−微生物という生命体の連鎖が成立する。食物連鎖である。

 3)林業、農業、水産業は、この食物連鎖を人間が巧みに人為化したものにすぎない。この食物連鎖・生態系が豊かに存在するためには、森林−河川−海の水系の流れの中で土壌が豊かになることが必要である。ところで、今日の農業−工業化農業は、主要に化学肥料に依存している。化学肥料は植物生態にたいしては擬似自然物である。塩化ナトリューム99%の化学塩のようなもので、塩といえば塩であるが生命体になじまず、長期的に接種すれば拒否反応を起こし人間は自然塩を求めるように、化学肥料も植物にとってある種の異物であって、生体になじまない要素を体外に排出せざるをえない。それらの排出物を求める虫にたいして農薬が使用される。化学肥料は無機物であり、特殊な微生物を除いて微生物の栄養素ではない。化学肥料の残留強酸と化学農薬によって微生物は生存条件を極度に脅かされているのは微生物だけではない。偉大な地球の耕作者・みみずも生存の危機にひんしている。

 4)化学農法、工業化農業へと有機農業が転換された原因は、社会のシステムが工業中心に変革されたからである。工業が必要とする安価な労働力は、農村の分解による過剰労働者によらねばならなかった。化学肥料、化学農薬、農業機械の使用は、農村への化学資本と機械資本の市場拡大と同時に、農村での余剰労働力の創出を果たした。市場経済の農村への全面的浸透は、工業への農業の全面的依存関係を成立させた。畜産業は農業と分離して都市と直結した。肉牛、乳牛の飼育は専業化され、その結果、有畜農業はほぼ消滅した。地場の林業は工業資本による熱帯雨林、温帯雨林の寒帯雨林の大量伐採と輸入によって成立し得なくなり、森林は荒れるにまかされるようになった。林業-農業-畜産業−水産業の連鎖はずたずたにされている。

 5)それでは、再びそれらの連鎖を復活させ、アソシエーションに基づく新たな循環型社会をつくるにはどこから手をつければよいのか。衰退せざるを得ない工業にかわるシステムを準備するにはどこから手をつければよいのか。まず第一に、農業を大工業から分離することであり、化学肥料と化学農薬に代わる方法を編み出すことである。日本でもすでに自然農法や有機農法が2-3万の農家で先駆的に実践されていて、有機肥料や生物農薬に関する多くの実績をつ積んでいる。第二に、地域で農業を畜産業と結合することである。畜産の糞尿は公害のもとにもなり、又産業廃棄物として多くの場合処理されている。だが糞尿を原料として有機堆肥をつくり、農家と提携している畜産業者も現われてきていて、地域でこの提携システムを作っていけば、堆肥の地域自給は可能である。第三に都市の有機系廃棄物、特に生ごみなどを堆肥化することである。山形県長井市のレインボープランをはじめ急速に全国化しつつある。ただ都市のゴミ処理からの発想でなく、長井市のように地域循環システム作りからの発想が不可欠である。更に都市の人糞を堆肥化して、農業地帯に輸送するシステムを作ることによっても、都市を農村に直接結びつけることが出来る。第四に農産物の産直や産消提携や直販で、生産者と消費者を直結するルート作りを基本に直売多チャンネル化をはかり、さらに生産者が生産するだけでなく、流通グループをつくり、大流通機構による支配と中間搾取から脱出する方策をとることができる。第五に田園都市構想のもとに、地域循環型経済システムを可能なかぎり追求することである。例えば貨幣を使用せずに労働を直接交換するLETSシステム(地域経済信託制度)は5000名程度の地域でも、農産物の生産や交換、医療、建築、福祉や日常的サービスや軽工業製品の交換が可能である。すでに世界3000か所で実施されているといわれている。 農業、畜産業、農産加工業、農産・加工の流通、生協、住宅、保険、自動車、印刷、 レストラン、自主金融、リサイクル業、コンピューター、燃料、福祉、海外とのフェアトレード、研究所・・・の業種を共通の価値観―協同の思想の元に協同組合、有限会社形態でアソシエート(協同的連合)することによって、地域循環型のシステムを 作ることが可能だろう。現に70の事業体の連合である「北大阪商工協同組合」はそのような地域循環型システムを構築している。

 6)工業に関しては、農業、林業、牧畜業、水産業を基礎にした工業を地域で再興することから始めうる。「エコ工業化」である。石油製品のほとんどが内分泌掩乱物質である可能性が高く、石油化学産業が人類の生存に対する脅威になろうとしている現在、天然素材が急速に求められようとしている。実際、天然素材製品が石油製品に駆逐されたのは、天然素材が劣っていたからではなく、市場価格競争に敗北したからにすぎない。天然素材の使用価値の優位性は注目されてよい。農業は、また、小型機械や農業機械を製造し修理する中小企業を形成する能力をもっている。大工業からの完成品でなく、資材中心に入手した地域中小企業の自立力をたくわえうる。農業は一定地域で畜産業、林業、中小企業と連携することで自立の系を形成する過程を歩むことが出来る。この過程は同時に、その地域の循環経済システムが大工業から独立していく過程でもある。大工業は一部の空間を占めるが、各地域の経済を外部的に補完する位置を持つ。工業が生態系の要請に不断に接近するように、システムを変革することは、不可避であろう。有機物を生産する農業や畜産業の廃棄物を再利用しながら、工業においても廃棄物ゼロ(ゼロ・エミッション)をめざす「農業・工業一体型団地」形成が試みられている。協同に基づく地域循環型経済の自立的運営と管理、中央集権的な大工業よる経済から、生命系にもとずく経済へ移行すること、そのための人々の価値観、科学観、世界観の革命はすでに進んでいるが、その質とスピードと影響力をより急速に増大させることがシステム変革の前提である。循環と協同が、合言葉になるだろう。


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田中正治
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