農の21世紀システム:6.太陽エネルギー経済(1)

 1)科学技術の発展が労働生産性を著しく引上げ20世紀工業文明をつくりあげたのは、主要なエネルギー資源一石油が特殊に労働生産性の高い物質であったことに起因することはすでにふれた。この石油化学文明のシステムである資本主義の物質的生産カの拡大が、地球環境というシステムの自然的基盤を崩壊させることが明らかになることによって、エネルギー、科学技術、経済システムの革命が日程にのぼっている。

 2)原子力の数1000万度、数億度の温度は、破壊的用途としての原爆、水爆には物理的に「適している」にしても、非破壊的用途一原子力発電に利用する場合、超高温から装置を防衛するための多重な変換装置が必要となり、廃棄物処理と共に資本コストが極度に増大する。また、その安全性に関してはスリーマイル島とチェルノヴイリの事故がすでに証明した。

 3)良質の化石燃料一石油の枯渇と劣質の石化燃料一石炭が地球環境容量に対して過剰に存在し、それらを使用し続けるなら、生物生存条件を破壊するという状況のなかでは、石油を主エネルギーとする工業社会の衰退はさけられない。

 4)ふりそそぐ太陽エネルギーは拡散しており、土地分散的で密度が低すぎるために、今日の巨大工業システムには適合せず、従って集中したエネルギーを獲得しうる石油エネルギーに対抗できない。工業社会に対しては最適エネルギーではないが、太陽エネルギーは、ポストエ業社会では経済システムを支える最重要エネルギーとなるだろう。この太陽エネルギーの直接的産物である林業一農業一水産業とエコ的工業と協同的アソシエーションを基盤に社会システムを想定するなら、エネルギー問題は深刻な問題ではない。太陽光と共に無尽蔵のバイオエネルギーが活用可能なのであるから。

 5)図6は、ワールドウオッチ研究所のシミュレーション(クリストファー・フレイヒン/ニコラス・レイセン著『エネルギー大潮流』ダイヤモンド社)を図式化たものであるが、実現可能性が高いとおもわれる。そのポイントは、2025年までに原子力発電を全世界で全廃、2050年までに石油エネルギー使用全廃、2100年再生可能エネルギーの全面的使用まで過渡的に天然ガスを有効利用することである。

 6)このシミュレーションが現実性をもつためには、以下のような政策が実現されなければならないだろう。a)石油エネルギーの2050年全廃に向けて、そのための実行可能な削減策は、(1) 消費主体である個人の消費を減らす誘導策を与える。(2) 化石燃料によるエネルギー供給者に供給量を減らす誘導策を与える。(3) 再生可能エネルギー供給者に有利な誘導策を与える。具体的には課税によるエネルギー価格操作、C02税、環境税、石油価格の高価格維持、再生可能エネルギーの課税対象免除、SMUD型省エネ発電の普及、DSMの普及。b)原子力発電の2025年全廃。C)石炭の地下での封印。d)天然ガスの過渡的有効利用。e)再生可能エネルギーの量産とコストダウン。f)エネルギー効率のアップ。

 7)人類が太陽エネルギーへの全面的依存を決別し、化石燃料に依存したのは、産業革命の時だが、この太陽エネルギーこそあらゆるエネルギーの中で最も豊富なエネルギーである。地球にふりそそぐその3分の1は、宇宙に反射され、18%は大気に吸収され風を巻き起こす。残りの2分の1は、1990年全世界で人間が使用した全エネルギーの約6000倍に相当する。太陽エネルギーは分散型で、無秩序なエネルギーであり、化学燃料や電気が持つ多面的な機能に欠ける。林業・農業・水産業といった生命産業は、太陽の特性を生かしてシステム化したものであるが、工業システムでは集中的、多面的なエネルギーを必要とするが故に、太陽エネルギーは、二次的エネルギーに転化することによって実用化されてきた。21世紀の社会システムでは、化石燃料に代わって太陽エネルギーと植物を原料とした水素への全面的依存に転換されなければ、恐らく人類の未来はないだろう。工業システムにおいても、太陽エネルギーや水素エネルギーの特性に合わせた工場やオフィスが必要となるし、集中的エネルギーが必要な工業にたいしては、太陽エネルギー集中化の技術が課題となる。

 8)地域自給エネルギーの地域自給システムは、太陽エネルギーの直接的な変換形態の多様な組合せによって可能であろう。海岸、島、半島での風力発電、山間地域での小型水力発電、森林地域でのバイオマス発電、畜産地域でのバイオガス発電、都市居住地域での太陽光発電、工場、オフィス地域での太陽光発電の集中化システムなどの組合わせである。更に、植物からの無尽蔵の水素エネルギー(燃料電池)の広範な自家発電への活用は、急速に化石燃料にとって変わることになるだろう。ところで、エネルギー地域自給計画の前提になるのは巨大都市の解体と田園都市化と工業の「エコ」化であるが、地球環境的要因と資源(希少金属)要因による工業システムの衰退によって、それらは必然化されるであろう。エネルギー地域自給システムが、人々の未来にとって意義あるためには、システムヘの参加がポイントになる。協同組合・市民所有・自治体による風力発電、個人・農協・ワーカーズコレクテイブ・町営によるバイオマス発電、農家・農事組合・町営によるバイオガス発電、個人・協同組合・エコベンチヤー企業による太陽光発電、地域コジェネレーションそれに、これがおそらく主流になるだろうが、植物から無尽蔵に生産できる水素を使った燃料電池発電の各個人、家庭、都市、事業所、工場、農業、工業、サービス業などでの活用を、協同組合や市民事業のようなアソシエーション形態をとって、地域分散型・参加型・自給システムで行うことが未来の方向性であろう。情報の領域で集中型・巨大コンピューターによる巨大統合システムから、分散型、参加型、ネットワーク型のパソコンやインターネットの方向に人々の欲求があるのと同様に、そのような流れは、もはや、とどめることが出来ない。
図7参照。


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田中正治
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