種子は誰のものか:H)新しいコミュニティーの創造と種子の共同占有

 1)現在の日本では、インドのような土着のコミュニティーは、ほぼ消滅してしまっている。また、種子の自家採取率は、米の30%を除けば、5%以下であろう。だが、直面している問題や目指すべき課題は、インドと共通していると思われる。その課題の第一は、個人的所有を基礎にしながらも共同一占有一用役権を共通の創造課題とする、新しいコミュニティーの創造である。第二の課題は、巨大企業の種子独占に対抗して、種子の地域コミュニティーでの共同占有一種子の公共化である。

 2)第一の問題に挑戦するためには、なぜ農村地域共同体が崩壊したのか、新しい地域コミュニティーのイメージは、ということが課題となる。農村共同体崩壊の要因は、農業社会から工業社会への全面的転拠にあり、自足自給を基礎とした農村経済から市場経済、資本制経済への全面的転換にある。40年間、工業資本による圧倒的な社会の編成と展開の後に、現在、工業資本による社会の衰退が姶まり、ポスト工業社会、情報化社会の予兆があらゆるところで現われはじめた。工業資本による爆発的で、ダイナミックな社会の成長に対応した中央集権的な思想と組織は、桎梏となった。鉄道や造船などの巨大工業資本が自らの重荷に耐えかねてパワーを喪失するかのように、巨大国民国家もみずからの重荷に堪えかね、喘いでいる。地球的地域主義の時代が来たのである。そこでは、所有、国有、私有、占有、共同占有、非所有といった所有の概念が、労働の新しい概念が、自然に対する人間の根本的ありようの革命が、人々によって『共同編集』的に創造されればよい。我々の世代は、従来、農村共同体がもっていた共有地を喪失した。だが、人々の創造的コミニニケーション空間を媒介にしたシステムの創発が「現在の共有地」の様相を見せ始めている。そこには、産消提携の農村一都市グループ、生産協同組合、消費共同組合、NPO、ワーカーズ・コレクティブ、インタネットの「協同編集空間」などのアソシエーションが含まれるはずである。グローバルな資本の世界権力に対抗する、トランスナショナルなアソシエーションのネットワークが、資本のグローバル化に対抗する運動によって触発されている。

 3)第二の種子の問題に挑戦する時、まず第一に、種子の国家や企業の独占がなぜ進んだのか、第二に、種子を農民の手に共同占有するにはどうすればよいのか、が課題になる。1960年代農業の工業化と大量消費に対応した種子がF1種であった。知らず知らずの内にF1種は種子の90%以上を占領してしまった。種子企業と国家による種子の独占支配である。農民の自家採取は、自給自足用や地場の特産品、或いは、産消提携の有機農家で行なわれているに過ぎない。実際、農産物の生産、流通、消費の特殊性に、種子の特殊性は規定されるのである。従って、F1種と種子の企業や国家独占から脱出するためには、自給自足を除けば、独自の流通一消費ルートを形成することが不可欠となる。自家採取されたり、種苗交換された在来種や有機農業用に改良された種子を好み、その農産物を購入する独自のルートを形成することが要である。生命の多様性とバイタリティーの価値をメッセージとして運んでいく米や野菜のルートを無数につくっていくことである。遺伝子組み換え作物一大豆、トウモロコシ、菜種、じゃがいもなどが国境を越えて、知らぬ間に食卓に並び、それ負けじと農林水産省やバイテク企業が商品開発している時、コンビニやスーパーでジャンクフードが幅をきかせている今、遺伝子組み換えに対抗する、文化発信型、価値創造型、参加型の産消提携型のネットワークが形成される条件は、逆に広がり、深まっているのだ。

 4)種子の保存方法には、三つの形態がある。第一は、「ジーンバンク」で、国家プロジェクトとして、遣伝子の国家管理政策としてつくられているもので、世界中から遺伝子を収奪している。第二は、「フィールドバンク」といわれるもので、種子を採取する目的でのみ、作物を栽培している。種苗会杜や地方の農業試験所に該当するところがある。第三は、「伝承バンク」とでもいわれるもので、昔から農家が田畑で、営々と在来種の自家採取を続けてきた形態である。現在では、F1種から固定種を形成する方法もふくまれる。我々が民衆の種という場合、この第三の形態が基本となるだろう。遺伝子組み換えの大豆や稲に反対して在来種を守り普及する大豆畑トラストや水田トラスト運動と共に、生協や有機農産物専門機構が農家と共同で在来種の農産物の流通・消費の流れを意識的に作ることによって、在来種の生産の持続的システムをつくらなければならない。
 それだけではなく、すでに、現在、在来種が絶滅の危機状況にあるとき、アメリカのシード・セイヴァーズ・エクスチェインジやオーストラリアのシード・セーヴァーズ・アソシエーションのように、非営利組織・NPOが、種子採取、種子保管、種子交換、情報提供をすることによって、在来種の伝承を補完し、多国籍企業の種子支配に対抗しなければならない時代に入っている。


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田中正治
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