種子は誰のものか:B)1992年、ブラジル地球サミット

 1)ブラジル、リオ・デ・ジャネイロの表舞台は各国要人の華やかなセレモニーとNGO3万人のイベントであった。だがその水面下では、多国籍企業と世界のNGOとの激しい戦闘がくりひろげられていた。そのターゲットは「生物多様性条約」−「知的所有権」であった。種子を含む生物の遺伝子情報を管理すべき対象としたうえで、特許権一私的所有権を認めよ、と多国籍企業は主張した。他方、生物の多様性の延長線上に人間の社会や文化の多様性を捉えたうえで、先住民や民衆の共有財産を、先住民やNGOは主張した。先住民の共有財産権は認められた。だが、「知的所有権」という考えは条約そのものに明記されることになった点で、多国籍企業は密かにほくそえんだのである。

 2)この「生物多様性条約」をめぐる両者の闘いは、「知的所有権」の可否がその焦点であった。だが、その背後には自然観、人間観、所有観の対立があった。自然と生命に対し、遺伝子銃を打ち込んで、人工生物を作り上げるまで、人間の自然と生命に対する支配一所有を徹底するところに、未来をイメーメジしていくのか。それとも、人間は自然生態系の一部、生命の多様性の一部であり、そのようなものとして、自然に対する人間の関係をとりむすび、人間と人間との社会的関係を形成していくのか、という対立でもあった。

 3)20世紀が石油化学産業の世紀であったとするなら、21世紀は情報、生命産業の世紀になるとの予感は満ちあふれている。多国籍石油企業シェルによるバイオベンチャー企業や種苗企業の買収、西独ヘキスト、バイエル、米国ジュポン、英国ICIなどの多国籍化学企業の生命産業への全面参入。多国籍化学企業モンサントによる種子、農薬関連企業の連続的買収。バイオコンピュータの研究。遺伝子組み替えによる医薬品の開発や種子の支配。遺伝子治療、鉱工業での微生物の利用等など。

 4)21世紀の成長産業と言われるものをあげてみると、情報、医療一福祉、バイオ生命、ソフトエネルギー、環境である。その根幹に情報と生命産業がおかれている。情報産業が21世紀前半に飽和状態になった後、生命産業が浮上するという予想は多い。石油、原子力を基礎にした鉄鋼、造船、機械、石油化学、原子力発電、軍需産業など20世紀型の巨大産業が衰退していく中で、これらの資本は21世紀型産業へとシフトしはじめている。遺伝子工学と知的所有権がハードとソフトの焦点になっているのである。

 5)多国籍バイオ企業とは違った意味でだが、21世紀は情報と生命の世紀となるだろう。資本主義市場経済の自由な発展が、地球環境の復元力を限界に追いやり、人類自身の生命そのものの危機を呼び寄せてしまったのだから。人間の世界観や価値観、自然に対する人間の関係の在り方、人間の社会システムの在り方、物質的、知的所有の在り方を巡る革命の世紀に入ったようだ。


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田中正治
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